何時かの写真 #207

秋の曇り空の下、カメラマンのケンジは彼岸花が咲く小さな公園に足を運んでいた。手には、重厚なニコンD3Sの一眼レフカメラ。10年以上も前に発売されたこのカメラは、現代の軽くて手軽なミラーレスとは違い、存在感と重みを感じさせる。それが、ケンジがこのカメラを愛用し続けている理由の一つだった。 今日は、彼岸花を撮影するために出かけてきたが、操作に少し手間取っていた。久しぶりにD3Sを引っ張り出してきたせいもあり、設定を思い出すのに時間がかかる。「確か、こうやって絞りを調整して…」と独り言を言いながら、ファインダー越しに焦点を合わせる。装着しているレンズはお気に入りの50mm F1.8。ボケ感を活かして、背景をふんわりとさせるにはぴったりのレンズだ。 目の前には、鮮やかな赤で咲き誇る彼岸花。しかし、撮影スポットにはロープが張られ、花に近づきすぎないように制限されていた。少し距離があるが、逆にそれが良い構図を生み出していることに気づいた。彼はロープを手前に入れ、ボケを活かして彼岸花を浮かび上がらせるようなショットを狙うことにした。 「いい感じだな…」ケンジはピントを慎重に合わせ、露出を微調整した。F1.8の浅い被写界深度が、彼岸花の繊細な姿を際立たせ、背景の緑を柔らかくぼかしてくれる。その微妙なバランスを見つけるのに、何度もカメラをいじりながら慎重に設定を変えた。 D3Sの操作に少し時間がかかったものの、それでもやはりこのカメラの重厚なシャッター音を聞くたびに、ケンジは胸が躍る。「カシャッ!」と響くその音が、ケンジにとって写真を撮る瞬間の醍醐味だった。最新のカメラでは味わえない、機械的でありながらどこか温かみのあるシャッター音。それが、彼の撮影意欲をさらにかき立てていた。 ケンジは何枚かシャッターを切り、カメラのディスプレイで確認する。彼岸花が美しくボケの中に浮かび上がり、手前のロープがかすかに映り込んでいる。絶妙なバランスだ。何度も設定を微調整した甲斐があったと、ケンジは満足そうに微笑んだ。 「この音がたまらないんだよな…」と、ケンジはもう一度、シャッター音を楽しむようにゆっくりとシャッターを切った。カシャッという響きが耳に残り、心地よい余韻を感じさせた。 撮影を終え、ケンジは彼岸花が咲き誇る風景をしばらく眺めていた。カメラを手に、秋の静かな空気の中で一瞬一瞬を切り取っていく...