何時かの写真 #205

夏の終わり、田んぼに黄金色の稲穂が広がる季節。空にはまだ強い日差しが照りつけており、猛暑が続いていました。風が少し吹くものの、熱気が重く、どこかしんと静まり返った田んぼの風景が広がっていました。

ケンタはその田んぼの脇を一人で歩いていました。彼は田んぼの手入れをするために祖父の家を訪れていたのです。祖父と一緒に稲の成長を見守り、手伝いをしながら過ごす夏休みが、彼にとっての恒例行事となっていました。しかし今年は、例年になく猛暑が続き、どこか疲れを感じていました。

「今日も暑いなあ…」と、ケンタは額の汗をぬぐいながら、ゆっくりと田んぼのあぜ道を歩いていました。頭上の太陽はまだ容赦なく照りつけ、涼しげな風はほとんど感じられません。稲穂は風に揺れることなく、静かに頭を垂れていました。

ふと、ケンタは田んぼの端に、赤いものがちらりと目に入りました。そこに咲いていたのは一輪の彼岸花でした。真っ赤な花が、稲穂の間から突然現れたようにポツンと咲いているのです。その色は、田んぼ全体の黄金色の中でひときわ目立ち、不思議な存在感を放っていました。

「なんでこんなところに…？」ケンタはその花に近づき、不思議そうに見つめました。彼岸花は秋の訪れを告げる花で、暑さの中でも力強く、静かにその美しさを見せていました。その一輪の花は、まるでこの猛暑の中でも季節が少しずつ進んでいることを教えてくれているようでした。

ケンタはその場にしゃがみ込み、彼岸花をじっと見つめました。小さい頃、祖父が「彼岸花は稲穂と一緒に咲くんだ。秋が来る前に、必ず顔を出すんだよ」と話してくれたことを思い出しました。その時はあまり意識していませんでしたが、今、その一輪の花が、季節の移り変わりの象徴として彼の心に深く響きました。

「もうすぐ秋が来るんだな…」とケンタは思わずつぶやきました。暑さに少しばかり疲れていた心が、彼岸花の赤い色に癒されるような気がしました。この猛暑の中でも、季節は確実に移ろい、やがて涼しい風が吹き、稲穂が刈り取られる秋がやって来ることを思うと、少し心が軽くなったのです。

ケンタはそっと立ち上がり、再び田んぼのあぜ道を歩き出しました。一輪の彼岸花が、まるで彼を見送るように静かに風に揺れています。

その日、ケンタはいつもより少し穏やかな気持ちで祖父の家へ帰りました。彼岸花が教えてくれたのは、季節が巡り、どんなに暑い日々もいつか終わるということ。そして、その先に訪れる新しい季節を楽しみにする心の余裕を、彼は一輪の花から学んだのでした。

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何時かの一曲

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