何時かの写真 #204

秋の風が優しく吹き始め、空気が少しひんやりと感じられるようになったある日、サトルは仕事の帰り道、車でいつもの道を走っていました。車の窓を少しだけ開けて、冷たい秋の風を感じながら、ラジオから流れる穏やかな音楽に耳を傾けていました。

サトルはこの道を毎日通っていましたが、この季節になるといつも気になる光景がありました。それは近所にある小さな公園の脇に咲く、真っ赤なリコリスの花。毎年、秋の初めになると、リコリスが公園の一角を鮮やかに彩り、まるで季節の訪れを告げるかのように一斉に咲き誇るのです。

サトルはその花が咲くのを楽しみにしていました。今年もそろそろ見頃かなと思いながら、車をゆっくり走らせていました。そして、公園の前に差しかかると、見慣れた鮮やかな赤が目に飛び込んできました。

「やっぱり今年も咲いているな…」と、サトルは少し嬉しくなりました。リコリスの赤い花は、どこかノスタルジックな気持ちを呼び起こし、秋の訪れを強く感じさせてくれるものでした。

サトルは一度車を停め、公園の前でしばらく眺めてみることにしました。夕方の柔らかい光の中で、リコリスの花々は風に揺れながら美しく咲いていました。公園にはほとんど人がいなくて、ただ静かな空気と秋の香りが漂っていました。

その時、サトルの頭にふと思い出が蘇りました。子供の頃、この公園でよく遊んだことを。そして、その頃も同じようにリコリスの花が咲いていて、彼はいつもその不思議な形と鮮やかな色に見惚れていました。当時、近所のおばあさんが、「この花は彼岸花とも呼ばれて、秋になると必ず咲くんだよ」と教えてくれたことを思い出しました。

サトルはその記憶に微笑みを浮かべ、いつも通り過ぎるだけだったこの公園が、実は自分にとって大切な思い出の場所であることに気づきました。

車に戻り、再びエンジンをかけると、サトルは窓からもう一度リコリスの花を見ました。「また来年も、この花を見に来よう」と心の中でつぶやきながら、車を発進させました。

公園を後にしながら、サトルは秋が訪れるたびに、この公園とリコリスの花が、彼の心の中で特別な場所としてずっと残り続けることを感じました。秋の夕暮れと共に、静かに心に刻まれるその景色は、これからも毎年サトルに小さな幸せを運んでくれるのだと確信していました。

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何時かの一曲

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