何時かの写真 #206
秋の気配が少しずつ漂い始めたものの、まだ残暑が厳しい午後。曇り空が広がる中、タカシとサユリの夫婦は、久しぶりに神社の脇道を散歩していた。曇りのおかげで直射日光は避けられていたが、空気は湿り気を帯び、少し汗ばむような蒸し暑さが漂っている。
「今日は少し涼しいかと思ったけど、まだまだ暑いね」とサユリが汗をぬぐいながら言った。
「そうだな。でも、秋が近づいてるのを感じるよ」とタカシが微笑みながら応じた。
神社の境内は静かで、参拝客もほとんどいない。風が少しだけ吹き、木々がささやくように揺れていた。夫婦は鳥居をくぐり、小さな石畳の小路へと進んだ。その道は、神社の裏手に続く細い道で、参拝者の多い正面とは違い、静かで落ち着いた雰囲気が漂っている。
道の脇に目を向けると、ぽつんと真っ赤な彼岸花が咲いているのにサユリが気づいた。「あ、彼岸花。もうそんな季節なんだね」と彼女が指差す。そこには、数輪の彼岸花が静かに揺れ、曇り空の下でその赤色がひときわ目立っていた。
「ほんとだ。今年もきれいに咲いてるな」とタカシがうなずいた。彼岸花は秋の訪れを告げる花だが、その鮮烈な赤色がどこか儚く、短い命を精一杯に輝かせているように見えた。
「昔、この道を二人で歩いたときも彼岸花が咲いていたよね」とサユリがふと思い出を語る。数年前、この小路を同じように二人で歩きながら、彼岸花を眺めた記憶が蘇った。その頃は、まだ結婚したばかりで、二人でこうして季節の移り変わりを感じながら散歩するのが日常の楽しみだった。
「そうだな、あのときも残暑で汗だくになりながら歩いたんだっけ」とタカシが少し笑いながら言った。「でも、あの頃と同じようにこうして一緒に歩けるのはいいな」と、少し照れくさそうに付け加えた。
サユリはその言葉に微笑みながら「そうね。こうして季節を感じながら二人で歩く時間、やっぱり大切だよね」と答えた。二人はゆっくりと歩を進め、神社の石垣や木々に囲まれた静かな道を進んでいく。曇り空の下、彼岸花が咲き乱れる様子が、まるで二人を見守っているかのように静かに揺れている。
ふと、タカシが立ち止まり、彼岸花に目を留めた。「彼岸花、見るたびに思うけど、やっぱり不思議な花だよな。こんなに鮮やかなのに、どこか切なくて…」
サユリもうなずきながら「うん、なんだか短い間だけ咲いて、すぐに消えてしまう儚さがあるよね。でも、それが美しいのかもしれないね」と言った。
夫婦はそのまましばらく彼岸花を見つめ、静かな時間が流れた。曇り空の下で赤く咲く彼岸花が、今この瞬間だけの輝きを放っていることに気づいた二人は、再び歩き出した。
この日の散歩は、特別なことがあったわけではないが、二人にとっては心に残るひとときだった。残暑の蒸し暑さも、彼岸花の儚さも、すべてが二人の時間の一部として、これからの思い出に刻まれていく。
ChatGPT
何時かの一曲
Måneskin - Zitti e buoni
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